複業を実践している人が大分増えてきましたが、「複業メンバーを雇用している人ってどんな方なんだろう?」という疑問から今回、PR会社のitty selection Inc.(アイティ・セレクション)代表取締役 上村由依さんに話を伺ってきました。
アイティ・セレクションでは、メイン事業のほかに複業&フリーランスのみで構成するPRチームを運営されています。
複業で働くことに興味のある方や、会社で複業メンバーを雇用したいと考えている方、ぜひご覧いただけると嬉しいです!
2009年、22歳で東京からニューヨークへ。
NY在住中と帰国後のトータル3年半を、フリーランスのPRプランナー・PRライター「かみむらゆい」として活動。
50社以上のPRプランニングやPRライティングに携わり、2016年、29歳でPR会社を設立する。
東京・ニューヨーク・ハワイの日系企業やブランドのPRをサポート。ファッション・アート・クリエイティブ・IT業界を中心に手がける。
また、PRを軸としたフリーランス支援事業(「広報・PRプランナー&PRライター養成講座」主催など)、ニューヨークやハワイへの留学支援も展開している。
理想の働き方を実現できる場所を作るために複業中心のチームを編成
―まずは上村さんが運営されている会社「itty selection」について教えてください
itty selection(アイティ・セレクション)は、海外・PR・キャリアの3つの軸で「企業や個人の価値ある選択をサポートする」というビジョンの下、事業展開している会社です。
東京・ニューヨーク・ハワイの日系企業やブランドを対象としたPRのプランニングや、ニューヨークまたはハワイを介したキャリアアップ支援、PRパーソンやフリーランスの育成などをしています。
―ありがとうございます。itty selectionのPRチームには、複業とフリーランスのメンバーのみが在籍しているそうですね
はい。当社には「is Closet(アイエス・クローゼット)」というPRチームがあるのですが、私以外の全員が複業またはフリーランスとして働いています。
現在は21名のメンバーがいますが、メーカーや商社、PR会社に勤めていたり、地方や海外に住んでいる人など様々なバックグラウンドを持つ人が所属しています。
―なぜ複業・フリーランス中心のチームを作ったのですか?
自由なキャリアや理想の働き方を形成できる人を増やすために作りました。フリーランスで働く準備ができる場所でもありますし、今の仕事をしながら「より好きなこと・やりたいこと」に携われる機会にもなればと思っています。また、コミュニティではなく実際の仕事をする場なので、いざやりたいことが見つかったときのためのスキルアップにもつながります。
―詳しく経緯などを聞かせてもらえますか?
はい。まず私のキャリアについてお話しすると、留学生として渡航したNYで、フリーランスのPRプランナー・PRライターとして活動を開始しました。
NYで2年間のPRとライターの経験を積んで日本に帰国した後は、PR会社で2年間、会社を退職後、フリーランスとしての活動を2年間したのち、今の会社を設立し、今年で2年になります。
フリーランス時代から「ゆいさんみたいにフリーランスで働きたい」と相談されることが多かったのですが、当時は独立したばかりでノウハウが貯まっていなかったため、いつかフリーランスになる方法を教えられるようになりたいと思いながら仕事をしていました。
そのような中で、フリーランスになるための支援をするきっかけになったのが、2016年にPRライターのスキルを教えるための講座を開催したことです。
講座はフリーランスのなり方を教えるものではなかったのですが、私から学ぶことでフリーランスとしての働き方や働く楽しさを肌で感じてくれたみたいで、受講してくれた生徒たちがどんどん独立したり、フリーランスで働きたいと言うようになったんです。
そこで2017年頃からフリーランスになりたい人を対象に講座を開催するようになり、本格的にフリーランスになりたい人の支援をするようになりました。
―そんな経緯があってフリーランスになりたい人の支援を始めたんですね。
はい。そして複業中心のチームを作った理由にもつながるのですが、会社を設立して1年くらいたった頃に講座を受講した生徒たちが「ゆいさんの会社で働きたい」と相談をもらうようになったんです。
私としては嬉しかったのですが、理想の働き方を実現するためにフリーランスになりたいと講座を受講してくれたのに、私の会社で社員で働くとなると結局、依存先になってしまうだけなのでは?と思ったんです。
そこで、社員を雇わずに複業という形でチームに属してもらい、フリーランスに必要なノウハウを学べて、本当の意味での理想の働き方を実現するための組織を作ろうと思い、今のisClosetという複業中心のPRチームを作りました。
―ありがとうございます。複業でフリーランスになるための経験を積めるのはいいですね!
世間的にも特に最近は独立しやすい環境が整ってきて、勢いでフリーランスになってしまい、大変な思いをしている人が少なくありません。
仕事の依頼が途切れないまたは仕事を継続していく方法やビジネスに関する知識、フリーランスで働くにあたっての心構えなどを知らずに会社員勤めの時以上に大変・・・という働き方をしている人が多いように感じています。
せっかく理想の働き方を求めてフリーランスになるのであれば、それはもったいないなと。
複業という働き方は、今の仕事をしつつ、リスクが少ない形でやりたいことにチャレンジできますし、複業で働くことで、フリーランスの疑似体験もさせてあげられるのでぴったりのスタイルだと思っています。
複業でPRの仕事を経験してもらうことで、PRパーソンの育成にも貢献
―個人的には、複業でPRの仕事に挑戦できるのも魅力に感じました。PRの仕事ができるチャンスって少ない気がします。
そうなんです。
PRは人気の職種なので良い大学を出て大手会社に入り、さらにPRの部署に配属されないと携わることができないというのが現状です。
そのため、途中でキャリアチェンジをしたいと思ってもチャンスはほぼないですし、PRの仕事は経験が何より大事なので、独学で学んで転職や独立というのも難しいんです。
―確かにPRは会社だけでなく個人でも必要なスキルなのに、体系的に学んで実践できる人って少ないですし、身につけるチャンスも少ないですよね
本当は素質がある人はたくさんいると思うんですけどね。
PRの仕事は、お客様をはじめ、すべてのステークホルダーと信頼関係を築いた上で企業活動をしていくものなので、「発信した時に相手受け取り手がどう思うのか?」、「商品やサービスを手にした人たちがどう感じるのか?」などを想像できることが大事です。
そう考えると本当はPRの仕事が向いている人は、世の中には結構たくさんいると思うんですよね。
そんな人にPRの経験を積んで、キャリアチェンジできる場を提供できればよりたくさんの人がPRパーソンとして活躍でき、企業や社会にとってもいいことだと思っています。
複業メンバーとのコミュニケーションのコツは「オープン」であること
―複業メンバーと仕事をするにあたって、具体的にはどのようなコミュニケーションやマネジメントをされていますか?
基本的には、メッセンジャーをフルに活用していて、全体共有用、プロジェクト用など役割ごとにグループを作成していて、それぞれに関わっているメンバーを招待してやりとりをしています。
―リモートワークが中心なのですね。チームの運営は大変じゃないですか?
PRライターという職種のメンバーが揃っているというのもあるかも知れないのですが、文章上でのコミュニケーションが得意な人が多いので大変と思ったことはないですね。むしろ、それぞれがそれぞれのペースを保ちながら働けるので、自由ですし、楽しいですよ。今の時代、オンラインで顔を合わせてのミーティングもできますしね。
うまく回るコツの1つは、お客さまからの依頼の仕事以外に、各メンバーの適性に合わせて役割を作ってお願いをしていることですかね。
例えば、チームの運営をするにあたってのルールを取りまとめてドキュメント化してくれる人や、チームの文化を伝えてもらう人といった感じです。
中には私の言いそうなことを代弁してくれる人や、私の代わりに案件の判断をしてもらう人もいますね。
そもそも、得意を活かして共創できるチームでありたいという想いでやっていることですが、結果的に各メンバーに役割を持たせることで、チーム全体に当事者意識も生まれていてリモートワークで働く場所や時間帯がバラバラでもチームとしてうまく機能する仕組みを皆と一緒に作ることができています。
―メンバーに役割を持たせると確かに、チームに貢献している感じも出ていいですよね。ちなみに顔を合わせてのコミュニケーションは取らないのですか?
働いている場所がバラバラ、中には海外に住んでいる人もいるので、全員集まってのミーティングはしないですね。
各メンバーの状況については、オンラインミーティングで案件のフィードバックする際に仕事の話以外に最近の近況についてお互い話をしたり、出張の際に近くに住んでいるメンバーにあったりすることで、文章ではわからないメンバーの状況を把握するようにしています。
また、相談ごとがあるメンバーとの時間は作るようにしています。
―なるほど。それ以外にチームを運営する上で意識していることはありますか?
一番意識していることがあって、それは「常に正直に、オープンにしていること」です。
例えばある人に仕事のフィードバック、それこそ褒める以外に指摘をする場合でも、全体共有用のグループで伝えるようにしています。
そうすることで、私の考え方を全員に共有することができますし、他のメンバーの学びにもつながると思っているからです。
またチームを運営していく上で一番よくないのは、「ゆいさんはどう思っているんだろう?」と悩ませてしまうことだと思います。
そのため、なんでもオープンにしておく。だめなことはだめだと言うし、叱るときは叱るので、何も言わない時は「あ、これはOKなんだな」って思えるような雰囲気を作るように意識をしていますね。
口にはしないのに、心の中で実はいやなことを思っている、ということがあると、信用できないじゃないですか。PRの真髄でもある「信頼構築」のために心がけていることです。
―ちなみに上村さん自身は、複業メンバーと一緒に仕事をしてみてどうですか?
私が会社員時代に複業ができたか?というと「疲れる〜」ってなってできなかったと思うんですけど、複業メンバーの皆は本当に楽しんで仕事をしてくれているんですよね。
そればかりか、複業を始めてから前よりアクティブになってプライベートも充実しだす人も多いですし、「やりたいことで楽しく働く」ことは生きるエネルギーを生み出すんだなって、気づきにもつながりました。
私自身本当に皆と仕事ができて嬉しいですし、尊敬していますね。
だれもがPRできる世の中を創りたい
―最後に今後の展望などあればお願いします!
私としては、極端にいうと企業・個人、全員がPRをできるようになったらいいなと思っています。みんなが国語や算数ができるように。魚を釣って与えるのではなく、魚の「釣り方」を教えるようにPR業界に関わっていけたらと思います。
そのためにまずは、今のis Closetで働いている複業メンバーにPRの経験を積むことでフリーランスや独立、もしくはパラレルキャリアを極めるという目標を叶えてもらえたらと思います。そして自分らしい働き方・生き方ができるようになって欲しいです。
―全員がPRできるようになる。素敵な展望ですね。ちなみに学校を作る予定はないのですか?
講座をすでにやっています。広く浅く教えるより、ちゃんと経験して実績を積むことが大事だと思うので、今後も一人一人を見ていってその人にあった成長の仕方で、PRができるような人材を増やしていければと思います。
そしてゆくゆくは私が教えた子たちが次世代のPRパーソンを育てることに関わっていく・・・そんな良い連鎖が生まれてくれると嬉しいです!
取材を終えて
以上、上村由依さんのインタビューをお届けしましたがいかがだったでしょうか?
フリーランスになりたい人を支援するために複業・フリーランスのメンバーのみでチームを作り、会社を運営している上村さん、実際にお会いして取材をしましたが、本当にチームメンバーのことを思っていることが伝わってきました。
複業の働き方が注目されている今、雇用・マネジメントする側としてもこれまでと違った働きが求められるようになっていると感じます。
特に複業を実践する人は勤務時間や場所もバラバラになりがちだと思います。
そういった時に上村さんが言っていた「複業メンバーに役割を持たせて自主性を持ってもらう」や「常にオープンに発信する」という内容は複業メンバーでチームを構築する際のヒントになりそうですね。